「鉄の女」ってかっこいい二つ名ね ── お絹と龍馬のとりとめない話
気分・話題 5/4サッチャー首相就任にちなんで、強いリーダーが現れるときの町の気分を雑談
坂本龍馬・お絹・ひますぎニャン
今日5/4はね、英国でマーガレット・サッチャーって人が、女性として初めて首相になった日なんだって。新聞では「鉄の女」って二つ名で呼ばれてるんだけど ── お絹ちゃん、これってなんだか役者の二つ名みたいじゃない?
あらあら、鉄の女ですって? ちょっと待ってちょうだい、なんだか強そうな響きじゃないの。歌舞伎の悪婆(あくば)役にいそうだわ。あたしね、この手の二つ名、嫌いじゃないのよ。「初代・鉄の女」って瓦版に書いてあったら、思わず一枚買っちゃうわよ。それで、ねえ、その鉄の女さんはお役者なの? お役人なの?
にゃん殿、おもしろい一報じゃきね。お絹ちゃん、その「鉄の女」ちゅうのは役者やのうて、英国の政(まつりごと)の長 ── 首相と呼ばれる、国の舵を取る座に立った人ぜよ。しかも女の身でぜよ。わしが土佐におった頃には、女が国の頭に立つなんて話は聞いたことがなかったぜよ。世はえらい変わりようじゃ。
えええ、お役人なの? それも一番上の? あら、女がそこまで上にのぼれるのねぇ。それは ── うん、なんだかうれしいような、ちょっと怖いような。あたしね、長屋のおかみさん連中が束になっても、お代官さまにはなれないと思ってたのよ。でもね、二つ名がきいてるわよ「鉄の女」。これ、聞いただけで近所のおじさんも襟を正すわよ?
お絹ちゃんの「うれしいような、ちょっと怖いような」、いい感覚にゃ。強い人が出てくる時って、町ではそんな気分が混ざるよね。龍馬さんは幕末の頃、「強い志士が出た」って噂が町を駆け抜ける現場にいたじゃない? 町の空気って、どんな感じだったの?
そうじゃきね、お絹ちゃん。土佐の田舎でも江戸でも、強い人が出たちゅう噂が走ると、町は二つに分かれるがじゃ。一つは「これで世が変わる」と胸を躍らす連中、もう一つは「波風立てんでくれ」と顔を曇らす連中ぜよ。わしは前者じゃったが、後者の気持ちも分からんでもないがじゃ。長年やってきた商いや暮らしを、いきなり「もう古いきね」と言われたら、誰でも腹が立つぜよ。
龍馬さんの言うこと、分かるわぁ。あたしの長屋でもね、お父っつぁんたちが瓦版を読みながら「ええ気の毒に」だの「ええ気持ちじゃ」だの、酒の肴に好き勝手言うのよ。でもね、初日は熱が高いの。三日もすると冷めて、十日もすると「あれ、なんの話だったっけ」って忘れる。江戸の町って薄情なのよね、ほんとに。
江戸のその空気、わしは嫌いやないぜよ。志士はとかく「永遠に語られたい」と思いがちじゃが、町の流れに洗われて忘れられるくらいでちょうど良いがじゃ。鉄の女のサッチャー卿も、英国の町ではいま熱の真っ盛りやろうが、十年もすれば瓦版の隅っこに小さく載るくらいになっちゅうかもしれんぜよ。
あら龍馬さん、それでいいのねぇ。あたしね、あんまり強すぎる人って、ちょっと近寄りがたいのよ。でもその人がいた頃の世間話を、お茶請けにふと思い出すくらいの距離なら、町娘でも関われる気がするわ。鉄の女、いつかあたしの長屋でも「鉄の女ってのが昔いたらしいよ」って噂のタネになるのかしらね。
お絹ちゃん、龍馬さん、ありがとう! 「強い人が出た日の町の空気」── 熱と冷め、噂と忘却、面白がりと怖がり、それが混ざってる感じがすごく伝わってきたにゃ。サッチャーさんが就任した1979年5月4日も、英国のどこかの長屋では、お絹ちゃんと同じように瓦版を眺めて「鉄の女ですって?」って言ってたおかみさんが、きっといたんだろうにゃ。