敵同士が井戸を一緒に管理した話 ── シューマン宣言76周年
気分・話題 1950年5月9日、シューマン宣言が発表されてEUの種が蒔かれた日って聞いて
紫式部・お絹・ひますぎニャン
二人ともお茶飲もう! 今日5/9はね、1950年にフランスの外務大臣シューマンさんが「ドイツと一緒に石炭と鉄鋼を共同で管理しちゃおう」って宣言した日なんだ。これがきっかけで、いまのEU(欧州連合)っていう国の集まりができたの。フランスとドイツって戦争を二度もやり合った仇同士だったんだけど、戦争が終わってたった5年でこの提案が出たのは、結構驚きにゃ。お二人、この話どう感じる?
にゃん殿、興味深きお話にござります。仏蘭西と独逸 ── どちらも遠き異国の名にて、わたくし恐れながら詳しゅうは存じませぬが ── 二度の大戦のあと、わずか五年で文を交わすほどに相手と再び結ばれるとは、これはさながら、長き気まずさを抱えた宮中の御方々が、ようやく一首の歌を詠み交わすような心地にござりましょうか。憎みきってもなお、互いを忘れられぬ間柄なのやもしれず。
紫式部さま、相変わらず雅な見立てねぇ! あたしはね、ぱっと聞いて思ったの。これって長屋の隣同士が大喧嘩したあと「もう井戸を別々に使うのやめましょ。一緒に管理して持ち回りで掃除しましょ」って約束した話みたいじゃないの? 互いに井戸を独り占めしようとしてたから喧嘩になったわけで、いっそ一緒に管理しちゃえば、こっそり水に何か混ぜることもできなくなるでしょ? 賢い長屋のおかみさんの知恵だわ。
お絹ちゃん、それすごい的確な例えだにゃ! まさにそれなんだ ── 当時の石炭と鉄は戦争を起こす素そのものだったから、両国が一緒に管理することで「どっちも武器を勝手に作れない」って状況を作ったんだよ。井戸を一緒に管理する長屋のおかみさん、見事な比喩にゃ。
お絹どののお話を伺うて、わたくしも合点がゆきましてございます。なるほど ── 信じあう前に、まず「裏切れぬ仕組み」を結ぶということにござりますね。これは物語の人と人の縁にも通ずるところがあるやもしれませぬ。互いを信じきれぬ間柄でも、同じ庭の池の魚を共に世話するような約定が結ばれておれば、もしや穏やかな関わりが続いたやもしれずと、ふと思いましてございます。
紫式部さま、それすごく分かるわ! あたしはね、もうひとつ気になることがあるの。76年って ── ものすごく長くないかしら? 1950年から数えて76年、この間ずぅっと喧嘩しなかったってことよね。あたしの長屋でいったら、おっかさんが嫁に来てから孫が嫁を取るくらいの月日よ。仇同士が三代続けて喧嘩しなかったってのは、これはもう奇跡ってもんじゃないの?
お絹ちゃんの「三代続けて」、いい数え方にゃ! 実はね、EUっていう枠組みは今は加盟国が27カ国まで広がってて、その中で加盟国同士の戦争はゼロのまま続いてるんだ。これ、人類の歴史の中でも結構珍しいことなんだよ。
二十七もの国々が ── まあ、なんと壮大な物語にござりましょう。されど、わたくしひとつ気になることがございます。長き和もまた、退屈になるは世の常にござります。宮中とて、争いなき時代が続けば、若き人々はかえって新たな波風を求めるもの。EUと申す国々の集まりも、和の続きすぎを退屈と感じる若き者が、いつしか出てまいるのではござりますまいか。和を保つは、和を始めるより難しき業やもしれず。
紫式部さま、それあたしすごく分かる! あたしの長屋でも、何にも事件が起きない月が続くと、誰かが「あの夫婦最近変よ」とか勝手に噂を作り始めるもの。平和って、案外ね、退屈と紙一重なのよ。 だから76年続いてるってことは、退屈の罠も乗り越えてきたってことじゃないの? すごいわぁ、欧州の方々。
紫式部さまの「和を保つは和を始めるより難しい」、深いにゃ。実は最近のEUって結構揺れててね、英国が抜けたり、加盟国の中で揉めたりもしてるんだ。お絹ちゃんの言う「退屈の罠」もちゃんと現実に来てる。だからこそ、76年続いてること自体が毎年更新されてる奇跡なのかもしれないにゃ。
毎年更新されし奇跡 ── まこと美しき言葉にござります。わたくしは思いまする ── 奇跡とは、特別な日に一度起きるものではのうて、何も起きなんだ日々の積み重ねにて立ち現るるものなのやもしれず。1950年5月9日のシューマンと申されしお人の一筆は、その「何も起きなんだ日々」を七十六年連ねるための、最初の一筆だったということにござりましょう。
紫式部さま、あたしね、今日はあなたの言葉を一つ持ち帰りたいわ。「何も起きなかった日々の積み重ねこそ奇跡」── これ、長屋に帰って瓦版に書きたいくらいよ。喧嘩しないって、退屈なようでいて、実は一番大変なことなのよね。にゃん殿、紫式部さま、今日も気づきがいっぱいだったわ! お茶、もう一杯いただこうかしら。
二人ともありがとう! 1950年5月9日のシューマン宣言は、欧州にとっての「何も起きない日々を始めるための一筆」だったんだね。お絹ちゃんの「井戸を一緒に管理する長屋のおかみさん」、紫式部さまの「同じ池の魚を共に世話する約定」── 江戸でも平安でも、人と人が和を結ぶ知恵の本質は変わらないのかもしれないにゃ。お茶のおかわり、もちろん用意するよ!