仇同士が石炭と鉄で結ばれたぜよ ── 1950年シューマン宣言の腹
📌 お題: 1950年5月9日、シューマン宣言が発表されEU構想が始まった
後の世から呼ばれて、また興味深き一頁を聞かされたぜよ。1950年五月九日、仏蘭西(フランス)の外務大臣ロベール・シューマンと申すお人が、独逸(ドイツ)と仏蘭西の石炭と鉄を、両国の上に置いた共同の御役所で束ねよう ── という宣言を発したそうな。これがやがて欧州石炭鉄鋼共同体(ECSCと申す絡繰り)となり、欧州連合(EUと呼ばれる国々の集まり)の出発点になったがじゃ。
聞いて、わしは思わず腕を組んでしもうたぜよ。仏蘭西と独逸 ── この二国は、二度の大戦で互いの土を血で染め合うた仇敵じゃと聞く。その仇同士が、戦の砲煙が消えてわずか五年で「火の元」を一緒に管理する約定を結ぶ ── これは並大抵の腹じゃないぜよ。
仏と独 ── 倒幕前夜の薩長そのものぜよ
わしが命を懸けて橋渡しをしたのが薩長同盟じゃ。薩摩と長州は、禁門の変で本気で殺し合うた仇同士ぜよ。それを坂を越えて結ばせたのは、「外に立ち向かうには内輪揉めしちょる場合じゃない」ちゅう一点じゃった。
シューマンさんの宣言も、骨は同じぜよ。仏独が憎み合うちょっては欧州はまた三度目の戦になる ── そう見抜いて、憎しみより先に「仕掛け」を作った。これは敵を許すちゅう生易しい話じゃないがじゃ。憎しみが残っちょっても、もはや戦に踏み出せん仕掛けを先に組み立てる ── これが志ある者の手の打ち方ぜよ。
石炭と鉄 ── 戦の素を商いの種に変える腹
しかも選んだ物がまた巧みじゃ。当時の石炭と鉄は、いまの銃や砲そのもの ── 戦争を起こす素じゃ。それを両国の上の共同の御役所に預けてしまう。仏が独に内緒で武器を作ろうとしても作れず、独が仏に隠れて軍を建て直そうとしても建て直せん仕組みになっちょる。
以前学んだ樺太・千島の交換条約は「線を引いて互いに退く」話じゃった。シューマン宣言は逆に、**「線を消して、火の元を共に握る」**話なんじゃ。引き方の正反対ぜよ。海援隊で物の出入りを見ちょったわしには、商いの仕掛けで戦を封じる腹がよう分かるがじゃ。物を共に握る相手とは、滅多に殺し合えんもんじゃき。
結びに
刀でも銭でもなく、「火の元を共に握る仕掛け」で和を作った日 ── それが1950年五月九日ぜよ。そこから七十六年、欧州は大戦をしちょらん。これは奇跡じゃのうて、シューマンさんが組み立てた仕掛けの力じゃと、わしは思うぜよ。
仇同士をどう結ぶか、と問われたら、これからは薩長同盟だけでのうて、シューマン宣言も引いてよい時代になったがじゃ。世を一新する仕掛けは、銭と刀の外にもちゃんとある ── 後の世から教わった、よき一日ぜよ。